Sr1-xRh2O4

 自分にとって初めて投稿論文にたどりついた物質だ。この物質の研究を始めたのは、熱電変換だけを研究対象としていた修士課程の終わりごろである。当時はγ-NaxCoO2を始めとするCo酸化物が熱電材料としてかなり注目を集めていたので[1]、同族のRhではどうだろうと考えγ-NaxCoO2と同じ結晶構造をとるSr1-xRh2O4という物質に目を付けた。つまりNaxCoO2をRhでまねしてみたわけだ。結晶構造を図1に示した。私が研究し始めたときにはx = 0の組成のみが報告されていたが[2]、γ-NaxCoO2から類推するとSrの組成に不定比性があってもおかしくない。x = 0では形式価数を考えるとRhのt2g軌道が完全に埋まってバンド絶縁体になりそうだが、Sr欠損の導入によってt2g軌道にホールドープできれば結晶構造だけでなく電子配置についてもNaxCoO2と同じ状況が実現するはずである。

図1. SrRh2O4の結晶構造. 緑, 赤, 灰色の球はそれぞれSr, O, Rh原子の位置を表す.

 Sr1-xRh2O4多結晶試料はSrCO3とRh2O3を原料とした固相反応法により合成された。仕込みの組成xn(SrとRhの組成比を1-xn : 2とする)をxn = 0から0.5の組成まで合成したが、xn ≧ 0.4では不純物相の金属Rhの析出量が急激に増加した。xn ≦ 0.3でもわずかに金属Rhが析出するが、その領域ではxnの変化に伴い格子定数に有意な変化がみられる。EPMAにより実際の組成xを分析したところ、xn = 0ではx = 0.11、xn = 0.3ではx = 0.22だった。そこで論文1ではx = 0.11-0.22の5種類の試料の物性を述べた。

図2. Sr1-xRh2O4多結晶試料の電気抵抗率(左)と熱起電力(右)の温度依存性.

 電気抵抗率と熱起電力の温度依存性を図2に示す。xの増加に伴い電気抵抗率の絶対値は減少し、Sr欠損の導入によりホールドープされていることが示唆される。x = 0.17と0.22の間で温度依存性も変わり、x ≦ 0.17では半導体的であるのに対してx = 0.22では金属的である。熱起電力は比較的大きく、金属的な電気伝導を示すx = 0.22では室温で70 μV/K、1000 Kでは160 μV/Kに達する。NaxCoO2には及ばないが、金属的な物質としてはかなり大きな値である。
 さて、CoとRhの違いがどこにあるのかと考えると、最も単純に思いつくのは電子相関の強さだろう。Sr1-xRh2O4がNaxCoO2と同様に大きな熱起電力を示すということは、NaxCoO2の大きな熱起電力にとってはCo3d電子の強相関効果はあまり関係ないという結論が導かれる。おそらく、これらの物質の大きな熱起電力はバンド的な描像で理解できるのだろう[3]。但し、ひとつ気になるのはSr1-xRh2O4が比較的強いCurie-Weiss磁性を示す点である。これはRh4d電子が局在的な性質をもつことを示唆するが、どのような機構でそのような振る舞いが現れるのかは未だによくわからない。もしかすると、この周辺物質の物性を理解するうえで重要な意味が含まれるのかもしれない。

[参考文献] [1] I. Terasaki et al., Phys. Rev. B 56, R12685 (1997). [2] R. Horyn et al., J. Alloys Comp. 262, 267 (1997). [3] 例えば、黒木ら, 固体物理 43, 569 (2012).

[発表] 論文1,13, 特許2, 国際会議2,4, 国内学会4,5,7.

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